良い戦略が、現場で動かない理由

戦略と実行の間にある、対話と認識のずれ

経営会議で、新しい戦略が決まりました。

市場環境を分析し、事業の方向性を定め、目標とKPIも設定しました。
説明資料もつくり、関係者へ共有しました。

それでも数か月が経つと、こんな声が聞こえてきます。

「思ったほど、現場が動いていない」
「施策がなかなか進まない」
「KPIが報告だけの数字になっている」
「営業とマーケティングの連携が変わらない」

戦略そのものが間違っているとは限りません。

むしろ、内容としてはよく考えられた戦略であることも少なくありません。

それでも動かない。

私は、その原因が戦略の良し悪しではなく、戦略と実行の間にある距離にあることが多いと考えています。

戦略をつくる人と、実行する人が見ている景色

経営者や事業責任者は、市場環境、競争状況、財務目標、事業の将来性などを見ながら戦略を考えます。

一方、現場が日々向き合っているのは、顧客、案件、問い合わせ、納期、社内調整、目の前の業務です。

どちらかが正しく、どちらかが間違っているわけではありません。

ただ、見ている景色が違います。

経営側にとっては、事業を成長させるために必要な変化であっても、現場には、

「また新しい施策が始まった」
「仕事が増えた」
「何を優先すればよいのか分からない」

と受け取られることがあります。

戦略を資料にまとめ、会議で説明しただけでは、この距離は埋まりません。

戦略を現場で動かすには、経営の意思を、現場が理解し、判断し、行動できる言葉へ翻訳する必要があります。

目的が伝わらず、施策だけが届いている

現場には、さまざまな施策が降りてきます。

「新規顧客へのアプローチを増やす」
「営業とマーケティングの連携を強化する」
「MQLやSQLを増やす」
「AIを活用する」
「新しいKPIを追う」

しかし、施策だけが伝わり、その背景が十分に共有されていないことがあります。

なぜ、今この施策が必要なのか。
現在の事業には、どのような課題があるのか。
何を変えたいのか。
その変化によって、会社や顧客にどのような価値が生まれるのか。

この部分が抜けたままでは、現場にとって施策は「やることが一つ増えた」だけになってしまいます。

人は、指示されたから動くことはできます。

しかし、その目的を理解していなければ、状況が変わったときに自ら判断することはできません。

戦略の実行で重要なのは、決められた行動を繰り返すことではなく、目的に照らして一人ひとりが判断できる状態をつくることです。

KPIを決めただけでは、行動は変わらない

戦略を実行するために、KPIを設定する企業は多いと思います。

売上、案件数、商談数、MQL、SQL、受注率、継続率。

数字を明確にすることは大切です。

ただし、KPIを設定しただけでは、現場の行動は変わりません。

たとえば、

「SQLを月30件創出する」

というKPIを設定したとします。

この数字だけを共有しても、現場には次のことが分かりません。

どの顧客を優先するのか。
どのテーマで接点をつくるのか。
マーケティングは何を準備するのか。
インサイドセールスは誰に連絡するのか。
営業はどの段階で引き継ぐのか。
誰が進捗を確認し、何を基準に改善するのか。

KPIは、戦略と現場をつなぐ途中の指標です。

その数字を、役割、対象、行動、頻度、判断基準まで落とし込んで初めて、実行の仕組みになります。

戦略からKPIへ。
KPIから役割へ。
役割から日々の行動へ。

この翻訳がなければ、KPIは会議で報告するための数字になってしまいます。

現場が動かないのではなく、動ける状態になっていない

戦略が進まないとき、つい、

「現場の理解が足りない」
「危機感がない」
「主体性がない」

と考えてしまうことがあります。

もちろん、個人の姿勢が影響する場合もあります。

しかし、その前に確認すべきことがあります。

現場は、戦略の背景を理解しているでしょうか。
自分の役割を具体的に認識しているでしょうか。
優先順位は明確でしょうか。
必要な情報や権限は渡されているでしょうか。
実行上の困りごとを話せる場があるでしょうか。

こうした条件が整っていなければ、現場は動かないのではなく、動きたくても動けない状態なのかもしれません。

戦略を実行できる組織をつくるには、現場へ責任を求めるだけでなく、現場が判断し、行動できる環境を設計する必要があります。

対話は、合意を取るためだけのものではない

戦略を説明した後に、

「何か意見はありますか」
「この方針でよいですか」

と確認することがあります。

しかし、多くの場合、その場で大きな反対意見は出ません。

会議で反対がなかったことと、現場が戦略を理解し、実行できることは同じではありません。

対話は、形式的な合意を取るためのものではありません。

経営が何を見ているのか。
現場がどのような状況にあるのか。
どこに認識の違いがあるのか。
何が実行を妨げているのか。
どのような形なら実際に動かせるのか。

それぞれが見ているものを言葉にし、違いを理解するためのものです。

対話を重ねることで、経営側が気づいていなかった現場の制約が見えることがあります。

同時に、現場も、目の前の施策が事業全体のどこにつながっているのかを理解できるようになります。

対話によって戦略を変えることもあれば、実行方法を変えることもあります。

重要なのは、最初につくった戦略を守ることではなく、目的を実現できる形へ整えていくことです。

戦略を動かすために必要な5つのこと

私が戦略と実行をつなぐ際に、大切だと考えていることが五つあります。

1.戦略の背景と目的を共有する

何をするのかだけでなく、なぜそれを行うのかを伝えます。

市場や顧客にどのような変化が起きているのか。
会社は何を目指しているのか。
今のままでは、何が問題なのか。

背景と目的が理解されて初めて、現場は施策の意味を判断できます。

2.現場の状況と制約を聞く

戦略を伝えるだけでなく、実行する側の話を聞きます。

現在の業務量、顧客の反応、社内プロセス、必要なスキル、他部門との関係。

現場の状況を知らずに実行計画をつくると、理論上は正しくても、実際には動かせない計画になります。

3.KPIを具体的な行動へ落とす

目標数字を、日々の行動まで分解します。

誰が、誰に対して、何を、いつまでに行うのか。
その結果を、どの頻度で確認するのか。
うまくいかなかった場合に、何を見直すのか。

行動へ落とし込まれていないKPIは、管理指標にとどまります。

4.役割と意思決定者を明確にする

複数部門が関わる施策では、役割の曖昧さが実行を止めます。

誰が責任を持つのか。
誰が支援するのか。
誰が最終判断をするのか。

全員が関係者である状態は、誰も責任を持たない状態になりかねません。

5.実行後も対話と振り返りを続ける

実行計画は、一度決めて終わりではありません。

市場も顧客も現場の状況も変わります。

定期的に結果を確認し、うまくいったこと、進まなかったこと、その理由を話し合う必要があります。

振り返りは、誰かを評価するためではなく、次の行動をより良くするために行います。

良い戦略とは、動かせる戦略である

戦略資料が美しくまとまっていること。
フレームワークが正しく使われていること。
目標とKPIが明確であること。

どれも大切です。

しかし、それだけでは戦略は動きません。

現場が目的を理解し、自分の役割を認識し、次に何をすべきかを判断できる。

実行した結果を振り返り、必要に応じて戦略や行動を見直せる。

そこまで設計されて初めて、戦略は事業を変える力になります。

私は、外から完成した戦略を渡すだけではなく、経営者や現場の方々との対話を通じて、戦略を実行できる形へ落とし込むことを大切にしています。

良い戦略とは、正しいことが書かれた戦略ではありません。

組織の中で理解され、判断され、行動へつながる戦略です。

一緒に、戦略を動かせる形にしませんか。

戦略や計画はあるけれど、
現場での実行が進んでいない。

経営と現場の間に、
認識のずれがあるように感じる。

そのような状態でも構いません。

まずは対話から、何が起きているのかを一緒に整理しましょう。

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